以前から気になっているレストランがあった。店名は「Saigon Saigon」。エスニック料理の飲食店が軒を並べるキング・ストリート沿い(スタンフォード・ブロックからハマースミス付近)に構える大きなレストラン。イギリスの建物が立ち並ぶ中で、そこだけが何だか1940年代頃のベトナムにタイムスリップしたような、そんな印象の店構えだ。情報によると味は現代風にアレンジされているということだが、このノスタルジックな店構えとのバランス感はどうなのか気になるところだ。今日は丁度、この近所に所用があって訪れたので、ふらりと立ち寄ってみた。
店に入ると、ベトナム人の若い店員がたどたどしい英語で店内へとエスコートしてくれた。しかし、応対はとても紳士的。初めて入った店なのに、この安らぎ感は何なのだろう?とっても落ち着ける。ランチョン・マットも箸入れも全てのものが木製で統一されているからだろうか?
暫しくつろいでいたかったが、お腹がグーと一鳴り。食べ時の合図だ。では、何を注文しようかな・・・。カエルの足の揚げ物、エスカルゴに焼きダックのマリネ...etc。どれも興味を引くが、まずはシンプルにチキンのスープ(£2.95)から。鶏肉のささ身と卵白、スイートコーンが入った餡仕立てのトロミの
あるスープだ。鶏ガラスープを何回もこしてあるのか、余分な油が浮いていない。手間隙かけた様子が伝わってくる上品な味だ。次は何といっても春巻き(£4.50)。オリエンタルの国の料理には欠かせない一品だ。今回私が選んだのは野菜の春巻き。鶏肉やエビの風味なしで、どれくらいの美味しさを出しているか知りたかったからだ。まずはタレを付けずに一口。キノコの風味が実にいい感じ。ではタレを付けてもう一口。どこでもお馴染みのスイートペッパーダレだが、春巻きの具が違うとまたその相性も違ってくるものだ。具を味付けしたお醤油味がかすかに効いていて、それが甘味と辛味にまた一つアクセントを加えているから絶妙なバランス。そして、次にテーブルに運ばれて来たのが、マリネチキンのソテー(£5.50)。少し魚醤を効かせた焼き鳥、といった感じ。これは、可もなく不可もなくといったところかな・・・あえて注文するほどのものではなかったかも。それより、ジャンプを繰り返して鍛えたカエルの足の唐揚げのほうが良かったかな・・・少し後悔。そして、今日の料理で一番の興味があるスパイシー・ジンジャーソースのかかったダックのサラダ(£6.50)の登場。何故、興味があるのかというと、ダックは鶏肉やターキーに比べるととても油っぽいお肉。ローストして油を落とし、カリカリした皮付きのお肉と野菜が混ぜられているのなら、まだその美味しさが想像できるのだが、茹でたか或いは蒸したかのダックのサラダ?それでも多少は油分が落ちてはいるだろうが・・・実は、以前に他の店でこの種のサラダを食べたとき、ダックのしつこい油で散々な思いをしたことがある。それ以来、暫くダック料理を避けていたのだが、さてさてこの店のものはどんな感じだろうか?ゆっくりとひと摘みを口へ運んだ。あら・・いけるじゃない!ショウガと酸味の組み合わせにスライスされたタマネギとコリアンダーの風味がよく効いていて、お肉のしつこさを少しも感じさせない。それぞれの味の特徴を良く生かしているといった感じだ。ここまで食べると空腹感もだいぶ満たされてはいたが、やはり大好きな魚介入りヌードル(£6.50)は欠くことができないので注文。素焼きの器に入った焼きライスヌードル。見た目にも美味しそう!そして、口の中では・・・お醤油と油に少しだけ甘味が加わり、それらを魚介類のエキスが包み込みまろやかな味を演出している。満点の満足感。
デザートは店員の薦めで、ココナッツミルクの中にタピオカとバナナ、葛餅に似たものが入ったベトナムの伝統的なデザート(£2.95)をいただいてみることにした。杏仁豆腐よりは甘味があるが、一個の器の中でトロピカル・ドリンクと杏仁豆腐をいただいている感じ。別腹にすっかり入ってしまった。
同店は、伝統的なベトナム料理の店というより、現代人の嗜好に応えた味の現代風ベトナム料理の店といえるだろう。日本料理の味にも良く似ていて、とても美味しい。ただ、今日は一つだけ大失敗をしてしまった。それは、独りで訪れてしまったこと。この種の料理は、やはり食欲旺盛な仲間と賑やかに食べる方が美味しさも更に増すというものだ。(茉)
2006年12月取材
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