最近EUに参加した国の労働者が増えているロンドン。特にポーランド人との出合いが多い。
そんな彼等が必ず訪れるポーランド家庭料理のレストラン「POLANKA」、というお勧めの場所があると聞き足を運んでみた。
店構えは街の小さな喫茶店といった感じで、決して派手ではない。日本にもよくある、食通だけが知る隠れ家的穴場の印象。好奇心が益々膨らむ。そして、その店内に足を踏み入れてみてビックリ。食品売り場の奥にあるレストランは意外に広い。また、ベージュを基本色に使った、品の良い室内装飾が清潔感のある家庭のダイニングルームを演出している。お客さんもほとんどがポーランド人のせいか、一瞬ポーランドの家庭を訪問したような錯覚。
いよいよ料理の注文。ポーランド人の心を知るには、やはり伝統的な家庭料理が一番。知人達からのアドバイスを参考に、ジュレク(Zurek£4.50),ピエロギ(Pierogi mixed£5.00)、グゥォンブキ(Golabki £4.50)、クレムフカ(Kremowka £1.80)の最も代表的な四品を注文した。
まずは、幅広い年齢層に愛されているというジュレク。中心をくり貫いたパンに入った白いスープを目前にし、思わず絶句。「エ!これが一人分?」最初から凄い迫力だ。とりあえず最初の一すくいを口に運んだ。程よく溶けたジャガイモがクリーミーさを引き出し、キルバーサというポーランドの薫製ソーセージが淡白な味のスープに適度な塩味と深みを添えている。後を引く味だ。そして、スープの中から現れた茹で卵に感激。宝物でも見付けた子供のようについ顔がほころんでしまった。
ポーランド料理と聞いて誰もが思い浮かべるピエロギは餃子によく似ている。具を包んでいる皮は餃子より厚いが、しわの寄せ方は全く同じ。不思議と親近感を覚えた。具には豚挽肉、チーズとジャガイモ、キノコとザウアークラウト(Sauerkraut,塩漬けにして発酵させたキャベツ)の三種類がある。どれを注文しようか迷うところだが、嬉しいことにmixed(三種が一皿に)というメニューも用意されていたので、これを選んだ。中でも特に興味があったのがキノコとザウアークラウトのコンビネーション。メニューだけで想像すれば、餃子にキャベツの漬け物が入っているようなもの。恐る恐る食べてみた・・・が、次の瞬間なぜか咀しゃくペースが増した。美味しい!塩漬けが発酵した、といっても臭みがある訳でも塩辛くもない。とても日本人好みの味だ。三種の中で一番のお勧めかも知れない。
次の料理を待っていると、隣のテーブルではポーランド人カップルがクネッグレ(Knedle £4.80)を食べていた。中にイチゴのジャムが入った丸い茹で団子だ。あまりにも美味しそうに食べているので、話しかけてみた。すると「試食してみれば」と勧めてくれたのでお言葉に甘えて一口。「ウン!イチゴのお団子」。日本でイチゴ大福を食べることを考えれば、それと似た感覚だが、一皿は多すぎる。一つか二つで充分だ。
何か塩味で口直しをしたいと思っていると、グゥォンブキ(小鳩)という名のロールキャベツが運ばれて来た。形が鳩の胸に似ているところからこの名前が付けられたという。ソースは各家庭で異なるらしい。ここでは一番古典的といわれるトマトソース添えを試食。一般的なロールキャベツの味と大した違いはないが、豚挽肉と一緒に入っているご飯が肉のしつこさを抑えているせいかもたれない。
そして、待ち兼ねたデザート。カスタードクリームと生クリームをパイ皮で挟んだクレムフカと、ポピーシード餡たっぷりのポピーシードケーキ(£2.50)のどちらにしようか迷った末、甘さを抑えたクレムフカに決定。カロリーさえ気にしなければペロリと食べられる軽さだ。一緒に注文したグラウンドコーヒー(Ground coffee £1.30)は、コーヒーの粉を直接カップに入れてお湯を注いだもの。フィルターでこしていないので口の中にコーヒーかすが残る。飲み慣れていないせいか、馴染めなかった。
また、このお店は、ライセンスがないのでお酒類は持ち込み。ワイン一本につき£2、ウイスキーやブランデーなどは£5のチャージを払えばOK。
「POLANKA」は庶民的な雰囲気を大切にしているレストラン。気取った食卓は期待しない方が良い。むしろ、気の置けない仲間同士や家族で美味しい料理に舌つづみを打ちながら雑談に華を咲かせるには絶好の場所だと思う。
しかも、「手作りの家庭料理の良さを守り続けたい」と語る店主や、常に笑顔を絶やさないウェートレスの持て成しには心がこもっていてあたたかい。ここにもポーランド人達が家庭を感じる魅力があるのだろう、と納得した。(茉)
(2006年8月取材)
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