店の外観
ベージュとオレンジを基調とした店内
ビュッフェスタイルのランチ
4種類のチャツネ、サラダ、ライタ
タンドリー・チキン、バージーと3種のチャツネ
ラム肉のカレーとチキンカレー、ラム・ケバブ
3種類のベジタブルカレー
この店オリジナルのアイスクリーム盛り合わせ
アイスクリームに使われているスパイスと
甘く煮詰めたバラの花弁と花びら
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インディアン料理店の激戦区、ハマースミス近くのキング・ストリート。これ迄にも評判のレストランを何店か紹介しているが、今日はその中の極め付きのレストラン「AGNI(アグニ)」を訪れることにした。何故この店が極め付きか、というと2005年6月に開店したばかりなのに、翌年にはいきなりミシェランが選ぶ“2006年安手頃価格で美味しい料理店”に選ばれたのだ。値が張って美味しいのは当たり前。しかし、安価で美味しいと聞けばその興味は一層高まる。
その、普通の店構えからは何一つとして他の店との違いは感じられない。ところが、店内に入った瞬間に目に飛び込んで来たのが、“AA Rosette Award 2005-2006”の表彰プレートだ。何と、優れた料理に対して贈られる権威あるこの賞も受賞していたのだ。料理への期待が募る。
昼食はビュッフェスタイル(£6.50)。5種類のカレーの他にタンドリー・チキン、ラム肉のケバブやバージー、4種類のチャツネ、ナン、ライスに3種類のサラダと十分の種類。じっくりと料理を賞味するにも丁度良い。まずは、お皿にスターターらしくタンドリー・チキン、バージー、パッパダムにチャツネ、サラダを盛った。大きなタンドリー・チキンは、お肉も柔らかく味もさっぱり。とりわけ気に入ったのが野菜入りバージー。カラッと揚げた天ぷらを食べている感じ。この懐かしい味に惹かれてもう二つ追加。これだけで終わりにしても十分満足できるくらいに美味しい。そして、次のお皿には、ラム肉のカレー、チキンのカレーにナンとご飯を添えて盛り合わせた。すると、シェフがラム肉のケバブを運んで来たのでこれもお皿へ。ぶつ切りの大きなラム肉のカレーはスパイスが良く効いている。お肉も骨からスルリと剥がれ、柔らかい。カレーというよりはシチューと表現した方が合っている。チキンのカレーは、ココナッツミルクが味をマイドに仕上げている。もちもち感のあるナンがこの2品には良く合う。ご飯よりもお薦めだ。これだけいただけば私の食欲は満足だが、他の料理への好奇心は満足しない。お腹よりも目が欲している、といった感じだ。そこで、最後の一皿には3種類の野菜カレーとナンを。ブロッコリーのカレーはココナッツミルクたっぷりで辛味と甘味のコンビネーションが最高。子供達に受ける味だと思う。そして、ジャガイモたっぷりのカレーはインド南部のものの様にドライではない。日本の家庭で出されるカレーに良く似ていて別腹にどんどん入ってしまう。最後のレンズ豆のカレーは、我が家でも良く作る一品。さて、どちらが美味しいかな? 悔しいけれど、同店に軍配は挙がった。豆にある臭いがない。どうしてだろう?下ごしらえに理由があるのだろうか? 絶品だ。
お腹はパンパン、料理にも大満足だったのだが、どうしても気になる一品があった。それはデザートのアイスクリーム。どうも普通のアイスクリームと違うようだ。Betel leef(東インド産コショウの葉)のアイスクリームに赤唐辛子、バラの花びらと花弁に黒こしょうを加えたもの。ショウガと バナナのアイスクリーム、そしてBeetroot(ビーツの根)のプディング。何だか体に良さそうなものばかりなのだ。嬉しいことに、その、気になる5種類でシェフが一皿の盛り合わせを作ってくれた(通常は、シェフのデザート3種といって£4.25)。東インド産コショウの葉は、消化を助ける効果があるらしいが、味はさすがに薬膳の癖があるのでいただくのに少し覚悟がいる。バラの花びらと花弁に黒コショウを混ぜたものは、なかなかいける。シェフの話によると、インドでは、このばらの花びらと花弁をお砂糖と一緒に煮詰めたものがいろいろな料理に使われるということだ。嬉しいことに美肌効果があるというから、毎日のおやつにいただいてもいいかも。そして、一番気に入ったのが赤唐辛子のアイスクリーム。口に入れた瞬間は甘いバニラ味が広がるが、次の瞬間に辛味が口の奥の方でかすかに主張し始める。よく考えられた味のハーモニーだ。
優れた料理に贈られる賞を2つも受賞しているというのに、オーナーシェフに少しもおごった様子がない。各客に丁寧に挨拶してまわり、料理の感想を聞いていた。きっとこのシェフは常に「お客」の存在を念頭に置いて料理を作っているのだと思う。そして、その人柄が美味しい料理にも込められているような気がした。(茉)
2007年1月取材 |