イギリス各地を結ぶ長距離バス「メガバス」。「我々はおよそ20年にわたって、国内各地に離れて住む人々の距離を縮める仕事に従事してきた。しかし一方で、この国は多くの地域差の上に成り立っているということも重々承知している」同社社長のヴェナブルズ氏は言う。

同社の依頼で地域差についての調査が行われたのだが、各地域の伝統にまつわる争いごとを見聞きしたり、実際に言い争いに巻き込まれたことがあるというイギリス人の多さに驚かされる結果が出た。


イギリスを分断する見えない線

近隣国や近隣地域と大小さまざまなもめごとが起きるのは、洋の東西にかかわらずどこの国でもあり得ることだが、イギリスの場合、その確執は隣接地域との間だけにとどまらず、国の南北を二分する見えないボーダー(分離線)が存在すると言われている。

このボーダーは、社会的・経済的・文化的な格差を示すもので、ロンドンを含むイングランド南部とそれ以外の地域を隔てているという。南部に住む人々は比較的高収入で生活水準も高いとされ、それが理由の一因ともいえるのかもしれないが、なんと平均寿命も北部に住む人たちよりもかなり高いらしい。

話し言葉にも明確な違いがあり、北部に住む人々は自分たちの訛りは「南の奴らに見下されている」と感じる一方で、母音をのばし気味に発音する南部特有の発音は「コミカルで、上品ぶっていて、尊大で、低脳」に感じるのだそうだ。


ブレグジットがもたらした分裂なんてまだまだ甘い?

「EU離脱か、残留か」。すったもんだのあげく、ブレグジット側が辛勝したものの(離脱派は北部に多かった)、その結果はあまりにも拮抗していた。そのためEU離脱を果たした今もすっきりきっちりとは終決していないというのが現状だ。だが、それよりもさらに重要で、今後も解決の道がまったく見いだせない争いごとがこの国には存在する。

横にスライスしたスコーンの上に先に乗せるのは、ジャムなのかクリームなのか(スコーン戦争 参照)、夕食を「ディナー」と呼ぶか「ティー」と呼ぶか、イギリス音楽のメッカはどこなのか!

これらの(日本人には些細ともとれないこともない)争いごとは、イギリスという国の隅々まで何世代にもわたり、親から子へ脈々と引き継がれている。


両者一歩も譲らず友人を失うことも

調査によれば、「ローカル・トラディション」を理由に誰かと言い争いになったことがあると回答した人は全体の41%にまで上った。そのうち17%は、激論になった末、以後お互い口も聞かなくなったというからただ事ではない。


言い争いの主な火種は?

絶対に譲れない!譲りたくない!という人が多い「スコーンの正しい食べ方」だが、33%がジャムを先に塗るといい(コンウォール流)、18%はクロテッド・クリームをベースに塗るのが好み(デヴォン流)だと回答。

また、イギリス人の生活には欠かせない紅茶の好みに関しては、35%がイングリッシュ・ブレックファスト・ティーが一番といい、意外や意外アールグレイ派は9%にとどまった。

そしてこれまた熱弁が繰り広げられるテーマである「イギリス音楽のメッカはどこか」。調査ではマンチェスターとロンドンを抑えてリバプールが1番人気となった。やはりメンバー全員がリバプール出身というビートルズを超えるミュージシャンはまだ出現していないということか。

日本風カレー(カツが乗ってなくてもカツカレー!)が人気を博する昨今だが、カレー界の大先輩であるインドカレーは長きにわたってイギリス国民食の1つとされてきた。では、イギリスの「カレー首都」はどこなのかと聞かれれば、我も我もと手をあげる都市は少なくない。アジア系住民が多いことで知られるブラッドフォード(11%)やカレー店がずらりと並ぶカレーマイルで有名なマンチェスター(10%)を抑えて堂々一位に輝いたのは、回答者の24%が支持したバーミンガムだった。

では、イギリスでチップスと呼ばれる、太くて不揃いなフライドポテトには何を付けるだろう?イングランド北東部ではカレーソース、北西部ではグレイビーソースと答えた人がそれぞれ25%だったが、一番多かったのはロンドンでも最も支持の高いケチャップの35%が群を抜いている。カレーソースやグレイビーソースは「付ける」というより「かける」に近いか?


そもそもなぜ言い争いが起きてしまうのか

自分の “お気に入り” に関して、どうしてこうも熱くなってしまうのか、という問いについては、「子どもの頃に受けた影響が強いから」が21%、「そういう風に育てられたから」が30%。そして37%と一番多かったのが「出身地に誇りを持っているから」だった。そう聞くと、なかなかいい話のように感じてくる。議論している当人でなければ、の話だが。


ちなみに日本は!?

日本国内にもあまり仲のよろしくない都道府県がある(らしい)。数年前には東京地図研究社が「都道府県ライバルマップ」を発表して話題となった。例えば大阪府と東京都のライバル関係についてはたびたび話の種になるが、同地図によれば、それは大阪府からの一方通行のライバル心であって、東京都民は神奈川県にほんのわずかなライバル心を抱いている以外、他の道府県には特に関心がないようだ。

また、8県に囲まれている長野県をライバル視する県が1つもないのというのも興味深い。(そしてちょっと寂しい。)ちなみに、ライバル心が相互に最強なのは鳥取県と島根県(とあるチェーンレストランやコーヒー店があるとかないとかが論争の焦点という噂も)ということだ。

大人になると出身地とは違う場所に居を構える人も多いが、高校野球ではどうしても出身地の代表校を応援してしまうというのは、やはり出身地のDNAというものが存在するからだろうか。