イギリスの南北を隔てる見えない境界線 ②
前回に引き続き、イギリス国土を分離する目に見えないボーダーによって分かれる南部と北部の違いについて、今回は10〜17番までをご紹介。(参考文献:オンラインマガジン「The Travel」)
10. 住宅の値段
言うまでもなく、物価を比較するのに住宅の価格だけに目を向けるべきではない。例えば、北部のパブで2ポンドの1パイントビールを探そうとしたら、その成功率はかなり高い。しかし南部では、そんな値段のビールに出会うのは虹の橋たもとに金貨を見つけるようなものだ。
当然、住宅の価格に関してはビールよりもさらにひどい。ロンドンの中心部にある共有の庭付ワンルーム・アパートと同じ価格で、北部では 1〜2エーカーの庭を持つ 3 ベッドルームの家を手に入れることができる。
南部の住宅価格の平均は£504,120(約1億円)、北部は£211,000ポンド(約4,200万円)(2023年時点)。もちろんその広さの違いについては言わずもがなである。
11. スポーツ文化
イギリス人は皆スポーツが大好きだ。「皆」とは文字通りほぼすべてのイギリス人と理解して間違いない。特にサッカーやラグビーの人気が高いのだが、ご想像通り、これにはその歴史的な背景が影響している。特にサッカーにおいては、イングランドのサポートシステムはレベルが違う。
南部を本拠地とする「アーセナル」や「チェルシー」のファンと、北部の「リバプール」や「マンチェスター・ユナイテッド」「マンチェスター・シティ」のファンを比較すると、応援するチームが彼らにとってどれほどの意味があるかという点で、明確な違いがある。個人レベルでの例外はあるにせよ、基本的に北部チームのファンの間では服に着けているサポートチームのバッジによって生死が分かれる言っても過言ではない。それに比べると南部のファンは(もう少しだけ…)落ち着いた印象がある。
12. 政治
こと政治に関しては特に紋切り型の話に聞こえてしまうかもしれないが、敢えてそれを念頭に置いた上で統計を見ると、南部は保守系、北部は労働党寄りの傾向がある。
しかしブレグジットの際は、さまざまな理由はあれど、北部では賛成票が圧倒的に多かった。南部では「離脱は考えられない」という考え方が主流で、離脱派は少数だろうと反対者の多くが高を括っていたため、わざわざ投票所まで出向かなかったことをブレグジットが実現した理由の一つに挙げる人もいる。
13. 深まる溝
2022年にガーディアン紙に掲載された記事によると、イングランドの南北の溝は近年さらに深まっており、特に著しいのは経済的格差だという。同紙の報告書には、英国の全人口の3分の1程度しか住んでいないイングランド南東部が、経済の45%、富の42%を占めていると指摘した。
しかし、この溝が今後も拡大し続けるのか、あるいは溝の他の側面が新たに拡大していくのかは神のみぞ知るというところだ。
14. 実際のところ、見えないボーダーはどこに?
ウィキペディアでは、北部をイングランド北東部のヨークシャー、北西部ハンバー(マージーサイドとグレーター・マンチェスターを含む)と説明している。つまり、ミッドランドとイングランド第二の都市圏といわれるバーミンガムは含まれない。
一方BBCの記事では、基本的に境界線をミッドランドの南、ブリストル近くのウェールズとの南国境までとしており、バーミンガムは北部の一部に含まれている。
しかし実際にはバーミンガムを「北部」とみなす人はほとんどいないだろう。大多数は、バーミンガムは北部でも南部でもなく「ミッドランド」と捉えている。
確かに、マンチェスター、ニューカッスル、リバプール、ヨークは「北部」と認識されているが、そこから少し南下すると、「北部」「ミッドランド」「南部」がどこからどこまでなのかについては、意見の相違が見られるグレーゾーンだ。北と南の国境は、 今なお論争中といえるだろう。
15. なんといっても、南部にはロンドンがある!
イギリス中のものがほとんどなんでもそろい、この国を訪れる多くの人が通るであろうロンドン。かつて世界最大の都市だったロンドンには、現在でも1,000万人近くもの人が住んでおり、国内でロンドンの次に大きな都市はその4分の1程度の規模にすぎない。ロンドンはまた、イギリスのビジネス、金融、芸術、政治、文化、その他の生活の中心地だ。こればかりはイングランド北部にはどうしようもない。
16. ゲーム・オブ・スローンズ
当然のことながら「ゲーム・オブ・スローンズ」はファンタジーだが、そのストーリーはイギリスにインスピレーションを受けているようだ。ローマ時代のブリテン島(現在のイングランドとウェールズ)とカレドニア(現在のスコットランド)の間のハドリアヌスの長城が両者を隔てる壁という設定で、ウィンターフェルとザ・ノースはイングランド北部でも特に歴史ある都市ヨークに、キングス・ランディングはロンドンに拠点を置いている。このことからも、イングランド北部と南部の分裂には、歴史的なバックグランドを感じることができるだろう。
17. 北部は南部ほど観光地化されていない
南フランスやスペインはイギリス人に人気の旅行先だが、国内旅行となると彼らの多くは南に向かう。他県と比べると比較的暖かいコーンウォールや、歴史的なローマ人の街バース、可愛らしい街並みのコッツウォルズ、ウォータースポーツが盛んなワイト島、そしてもちろん首都ロンドンで休暇を過ごすことを好む。
国内旅行で北部に向かうイギリス人は南部に向かう人ほど多くはないが、それでも湖水地方やヨークは人気が高い。北部へ行けば、大勢の国内外の観光客に出会うこともないので、人混みを避けて観光を楽しみたい人にはうってつけだ。