概要

英国は、イングランド、スコットランド、ウェールズおよび北アイルランドの4つの地域に分かれ、ロンドン所在の国会に加えて、スコットランド、ウェールズおよび北アイルランドにも立法機関があります。

4つの地域では、それぞれ法制度が異なりますが、差異の程度は、地域および法分野によります。

日本では、立法機関が制定する法典に全てのルールが規定されるべきであるとの前提をとる大陸法系の法制度が採用されています。これに対して、英国で採用されているコモン・ローの法制度は、「昔からあるルール」をベースにしており、法典化されていません。

したがって、英国では、法律の条文だけを見ても、ルールを把握することが困難な場合があります。たとえば、英国の会社法では、取締役の選任義務は規定されているものの、取締役の選任方法に関する規定は会社法にはなく、コモン・ローのルールによります。

以下では、主に、イングランドに関する法制度の説明をしていますので、他の地域のルールは、若干異なる場合があります

会社関連

外国法人が、英国で事業を開始する方法には、法人を設立する方法と、支店を設置する方法があります。両者の大きな違いは、事業主体に、独立の法人格が認められるかどうかです

子会社を設立する場合、Private CompanyまたはPublic Companyを選択することになります。Private Companyには、株式や社債を公衆に対して発行できないという制限がある代わりに、会社法上の規制が緩くなっています。いずれのタイプの法人であっても、取締役を選任する必要がありますが、会社法上、取締役の国籍要件や居住要件はなく、日本に居住する日本人が取締役に就任することも可能です。もっとも、税務上の居住地の判定との関係で、取締役の所在地が影響するため、取締役の構成については、税務アドバイザーにご相談されることをお勧めします。取締役は、さまざまな法定の義務を個人として負いますので、取締役に就任される場合には、その内容を理解することが重要です。会社役員賠償責任保険(D & O保険)も一般的です

支店(UK Establishment)を開設する場合も、Companies Houseへの届け出が必要になります。また、金融制裁の潜脱に関する昨今の意識の高まりを受けて、現在では、(英国から見た)外国法人が不動産に関する権利を取得する場合には、Overseas Entitiesとしての登録が必要になります。このため、支店のためのオフィスリースの取得に当たっては、原則として、Overseas Entitiesの登録も必要になります

雇用関連

従業員の採用に当たっては、雇用契約を締結して、会社と従業員間の雇用条件を明確にすることが重要です。雇用法上、法定の事項を説明する文書を会社から従業員に交付する必要があるため、雇用契約には、この法定の事項も入れ込む必要があります。また、従業員の苦情処理手続きや、有給休暇の申請等の基本的なルールを規定する従業員ハンドブックの作成も必要です。従業員の採用に当たっては、英国における就労権を有していることも確認しなければなりません

時間外労働の場合の残業代の支払は法律上義務付けられておらず、残業代を支払うべきかどうかは、雇用契約の条件によります。ただし、週当たり48週間を超える労働を従業員にさせることは、原則としてできません。

雇用者は、従業員に、少なくとも年間5.6週間分(フルタイムの従業員の場合28日)の有給(祝日含む)を付与する必要があります

加従業員の勤務期間が2年に達すると、従業員は、正当な理由なく、解雇されない権利を取得します。懲戒解雇や整理解雇は、正当な理由として認められる可能性があります。従業員の期間が2年未満であっても、解雇が自由に許されるというわけではなく、差別や内部通報の報復として解雇されたと判断される場合には、違法な解雇になります。

コンプライアンス関連

事業の内容によって必要なコンプライアンス対応は変わりますが、本項では、多くの日系の子会社が留意すべき代表的なものをご説明します

個人情報保護法:顧客や従業員の情報等個人情報の処理については、個人情報保護法対応が必要になります。また、個人情報を処理している事業者は、原則として、英国の個人情報保護当局(Information Commissioner’s Office)への登録が必要ですが、個人情報の処理の内容が限定的な場合には、登録が免除される場合があります。

贈収賄防止法:贈収賄防止法では、公務員のみならず、民間企業に対する賄賂も禁止されています。また、関係者による賄賂を防止しなかった場合には、事業者も責任を負います。関係者には、従業員や外部のエージェントも含まれるため、事業者は、賄賂防止の体制構築が重要です。

競争法:営業上重要な情報の競争事業者間での共有は、競争制限の可能性がある行為に該当し、違法です。海外では、日系企業間での交流の機会も多いことから、留意が必要です。

現代奴隷法:英国で事業を行っている事業者は、当該事業者およびそのサプライチェーンにおける現代奴隷を防止するためにとっている施策をウェブサイトに公表しなければなりません。もっとも、当該事業者(その子会社を含む)の売上高(英国外の売上高を含む)が£36,000,000に満たない場合には、この義務は免除されます。

(協力:Ashurst LLP