以前本コラムでやや縦長のイギリス国土を南北に分離する目に見えない境界線/ボーダーについて触れた。今回は、この境界線によって分かれる北部と南部ついて真面目に解説したオンラインマガジン「The Travel」を元に17の違いを前半/後半に分けてご紹介する。同誌は北米の読者を対象としたもので、紋切り型と思われる感想や多少の誇張も見られるが、イギリス滞在経験のある方なら「言われてみれば確かに!」と唸ってしまう部分もあるだろう。


1. 交通の便

イギリスを旅していて気づかされるのは、南部では交通インフラがしっかり整備されているということだ。電車や道路のネットワークが高度に発達しているので、目的地に行きやすい。

それに比べて北部では、一般的に交通インフラがあまり整備されていないため、移動に時間がかかり、場所によってはアクセス自体が制限されてしまうことすらある。交通網を改善する継続的な議論がなされてはいるものの、自然破壊や莫大な費用などの理由で地元の反対が多いのが実情だ。


2. 景観

南部には比較的なだらかな丘陵や曲がりくねった川、可愛らしい村が多く存在する。コッツウォルズの美しい田園地帯や、サウス・ダウンズ国立公園ののどかな風景がその代表格だ。海岸線には砂浜や白亜の崖、魅力的な海岸沿いの街があり、ゆったりとした気持ちで過ごすことができる。

一方、北部には湖水地方やヨークシャーデールなど険しい自然が広がる。このような地域はアウトドア愛好家にとっての天国であり、上級者向けのハイキングコースもある他、サイクリストにも人気だ。ノーサンバーランドやカンブリアなどのドラマチックともいえる海岸線も、人気の旅先となっている。


3. ユーモアのセンス

ユーモアのセンスも南部と北部では大きく異なる。南部には皮肉屋が多く、人々は比較的ドライなユーモアを持ち合わせている。

北部はというと、彼らの表現はやや大げさで、それがかえって親しみやすく、自嘲するお笑いを楽しむ傾向がある。

とはいえ南北両方のスタイルを楽しむのは珍しいことではなく、多くのイギリス人は居住地にかかわらずどちらの笑いにも寛大だ。人気コメディアンたちが国内ツアーで南北の隔てなく国中を回ることが、その良い証といえるだろう。


4. アクセント/訛り

標準的なイギリス英語のアクセントは何かと問われたら、多くの人は南部のアクセントを思い浮かべるのではないだろうか。これは、イギリス発のテレビ番組や映画では南部の英語が話される傾向が強いためだろう。

北部のアクセントや訛り、あるいは独自の文法などは、訓練されていない耳には少し耳障りに聞こえるきらいもあるが、それが彼らの一般的な話し方だ。北部が舞台となるアニメや北部出身のイギリス人が登場するテレビ番組が海外の英語圏で放送された際に、字幕が付いたこともあった。

また、南部では25 ~ 30キロ離れた場所でもほとんど変わらない英語を話しているのが、北部ではそれだけ離れるとアクセントが異なってくることも珍しくない。


5. 食べ物

南北の食のスタイルの違いを示す例として、典型的なイギリス料理「フィッシュ & チップス」で比較してみよう。

南部では、チップス(ポテトフライ)にケチャップやマヨネーズを付けるのが一般的だが、北に行くとグレービーソースやカレーソースが好まれる。これは南部では考えられないことだ。

南部的な食べ物といったら、クリームティー、ドーセット・アップルケーキ、サセックス・ポンド・プディング、ウィンチェスター・プディング、サセックス・ソール、コーニッシュ・パスティ、ウナギのゼリー寄せなどが有名。

北部には、ヨークシャー・カード・タルト、ヨークシャー・パーキン、ストッティー・ケーキ、ランカシャー・パスティ、ポテッド・シュリンプ、ソーセージロールなどがある。


6. 親しみやすさ

南部にも優しくて親しみやすい人はいるものの、それは単に程度の問題である。正直なところ、南部では部外者が軽蔑されているように感じてしまうことさえある。特に「ポッシュ」な観光地ではその傾向が強い。

翻って北部では、人々がたいへん親しみやすく、誰にでもフレンドリーであることが多いので、見ず知らずの人とでも話がはずむ。


7. 気候

「イギリスは雨が多い」といわれるが、実際まさにその通りで、ロンドンでは1年に100日以上雨が降る(ただし、1日中降りっぱなしというわけではない)。このため天気に関してはイングランドのどこに行っても変わらないと思い込んでいる旅行者も少なくないが、それは事実とは異なる。

南部では太陽が拝める場所を見つけられる可能性が高く、ワイト島、ブライトン、コーンウォールなどは、イングランドでもっとも晴天の日が多く気温が高くなる地域だ。

しかし残念ながら、北部では一貫して悪天候に見舞われる傾向が強い。

一つ南北に共通していえることは、雨が多少降ったぐらいで人々は傘をささないということだろうか。


8. 広さ

ヨークシャーが国内最大の県として知られているためか、北部の面積の方が南部よりも大きいという印象があるが、地図を見れば決してそうではないことがわかる。また、英国以外に住む人の中には、地図上でのスコットランドの見え方からスコットランドがイングランド北部であると誤解している人も少なくない。同様に、デボンとコーンウォールが南部の面積にどれほど貢献しているかも忘れがちだ。
ちなみに、イングランド北部最大の都市はマンチェスター(約116km2)、南部最大の都市はいうまでもなくロンドン(約1,572km2)だ。


9.「南部」と「北部」の狭間

イングランド北部と南部の間に位置する「ミッドランド」。正式に定義された地域ではないが、しばらくイギリスに滞在していると頻繁に見聞きするこのエリアは、伝統的な意味では北部と南部のいずれのカテゴリーにも属さない。面白いことに、ミッドランドがどこに「属する」かについては、南と北とでは正反対の視点があるようだ。

簡単にいえば、南部ではミッドランドは北であると信じられており、北部ではミッドランドは南部であると信じられている。実際にはどちらも正しくないのだが、それがイギリス文化を語る上での興味深い点ともいえるだろう。

(次回に続く)