進化するロンドン地下鉄の蚊
日本では暖かい季節になると「蚊」や「虫刺され」対策グッズの広告をよく目にする。悪い夏の風物詩といってもいいだろう。
しかしロンドンでは、蚊は夏の訪れと共に現れ、秋の声を聞くと去っていく…というものではない。通勤・通学で頻繁に地下鉄を利用していると、凍えるような冬の真っ只中でも、虫に刺された経験をした人も少なくないのでは。この卑劣な害虫は、ロンドンの地下鉄の中で進化し、利用者の私たち人間を四季を問わずに食い物にしている。
ザ・ロンドン・アンダーグラウンド・モスキート
ロンドンの地下鉄で最初に蚊らしきものが発見されたのは、第二次世界大戦中のこと。18万人もの人々が身を隠していた地下トンネルでは、爆弾攻撃は避けられたが、あらゆる種類の小動物や極小の虫たちからの攻撃には屈するしかなかった。中でも人々をもっとも悩ませたのが「蚊」であった。
しかし、地下鉄内に生存しているのはどんな種類の蚊かなのか。これについて深く調査されたのは、終戦後だいぶ経った1999年のことだった。調査を始めたのは、当時博士号取得を目指していたキャサリン・バーン女史。地下トンネルの異なる場所から捕えた蚊を調べたところ、地下の蚊と地上の蚊には大きな違いがあることが判明したという。調査チームが両者を交配させようと試みるも失敗に終わった。地下に住む蚊が「亜種」あるいは「変種」として分類されるようになったのは、「地上の親戚とのお付き合いは控えたい」という彼らの非社交的な態度のおかげといえる。通常であれば何千年もかかるそのプロセスをわずか何十年で達成してしまったのだ。
さて、現在もますます健在のロンドン地下鉄在住の蚊「ザ・ロンドン・アンダーグラウンド・モスキート」(カタカナだと一見カッコイイ名前だが、日本語名は「地下家蚊」)は、ネズミや人間の血が大好物。地上に住む親戚と違って冬眠はせず、1年中休みなく活動する。いつでも大好物が目の前にあるのだから当然といえば当然だろう。しかし、人間が飽食で盛り上がるクリスマスには、誰もいない地下鉄でひもじい思いをしているのかと思うと、ちょっと笑える。
蚊は何を基準に獲物を選ぶのか
蚊は甘い血を好む…という噂もあるが、これは正しくない。
しかし、たくさんの人がいる部屋で、なぜ自分だけが蚊の犠牲者になっているのか!と普段から腹立たしく、不思議に思っている人もいるだろう。事実、血に飢えた蚊たちのターゲットになりやすいタイプの人間は存在する。
・蚊は人間の体臭に敏感
蚊には甘さ・辛さはわからない。彼らが惹かれるのはある種の体臭だという。とはいっても、香水やアフタシェイブの人工的な香りではない。
蚊がうっとりしながら引き寄せられてしまうのは汗の匂い。この匂いは人それぞれで異なり、人間の鼻には芳しいと感じられることもあれば、無臭に近いこともある。
どうやら人間というものは、気づかぬうちに皮膚から何百もの分子を空気中にばら撒いているらしく、蚊はこの分子にたいそう敏感で、ターゲット選びに使っているそうだ。異常なほど優れた蚊の嗅覚は、1人の人間が放つ150種類もの異なる匂いを嗅ぎ分けることができるという。人の血を吸って忌み嫌われるより、臭気判定士国家試験でも受けてみたらどうかと思う。
・蚊は二酸化炭素に敏感
体臭のみならず、二酸化炭素にも敏感な蚊たちは、なんと30メートルも離れたところから人間の放つ二酸化炭素を探知できる。
人間がどれだけの二酸化酸素を吐き出すかは、飲酒量、肥満度、体温などによっても変わってくる。妊婦は平均よりも21%多くの二酸化炭素を放出するとの調べもある。妊娠中の女性の血液は、蚊にとって恰好のスナックになるということだ。
・蚊が好む血液型は!
私たち人間に大好物の食べ物があるように、デング熱やチクングニア熱を伝染させる蚊にも好物はある。
2004年に発表された日本の研究によると、この種の蚊は「O型」の血液が特にお好みで、O型の人は他の血液型に比べて85%も刺される可能性が高いとのこと。蚊語がわかればO型の何がそんなに特別なのかを聞いてみたいものだが、誠に残念だ。ブーン!