不法占拠者(スクウォッター)の権利?
日本で“不法占拠”といえば、国家間の領土がらみの問題を思い浮かべる人が多いだろうが、ここイギリスでは個人レベルで起きている。
他人の家や土地に入り込んで我がもののように扱う。日本人頭では「許されるはずがない行為に決まっているではないか」と思うのだが、実はそうでもないらしい。政府のウェブサイトに「他人のプロパティを自分のものにする方法」が示されているのだから、誰がなんと言おうと合法だ。
1976年のThe Tolmers Square Campaign
ロンドンのEuston近くTolmers Squareは当時、老朽化が進む商業施設や個人宅が軒を並べていた。1960年代の終わりになると、Tolmers Square周りの建物は全て取り壊し、新しくオフィスビルを建築することが決定した。しかしそれは地域コミュニティを破壊する行為だと、開発プロジェクトに反対する学生活動家たちが「The Tolmes Village Association(TVA)」を結成し、不法占拠を開始した。
1973年6月には不法占拠第一陣がTolmers Squareに移り住み、その2年後には50棟に180人のスクウォッターが住んでいたという。
すでにそのエリアを購入していたディベロッパーと自治体の間で開発の内容が具体化していく一方で、Tolmers Squareはさまざまなスキルを持ったスクウォッターたちの協力で活気を取り戻していた。
評議員や労働党の活動家も巻き込んだ反対活動による事業の遅れに業を煮やしたディベロッパーたちは、開発を諦めることになった。
その後はタウン・ホールが指揮をとり、当初の計画よりもオフィス・スペースを減らし、その分多くの住宅を建てた。結果的には、不法占拠をしていた活動家たちが勝利することになった。
しかし、このようにはっきりとした目的を持って不法占拠が行われることは稀だろう。
Squatters’ Rights (不法占拠者の権利)とは何なのか
「所有者の許可なく長期に渡って住居や土地を不法占拠している者は、一定の手続きを経て登録所有者になることができる」
読み間違えか?視力が落ちたのか?揶揄われているのか?と、何度か読み返してしまう善良な人も少なくないだろう。
●スクウォッターが登録所有者手続きをとるための条件
あなた自身(スクウォッターの前任者たちも含む)が
①10年間にわたって継続的に不動産を占有している(不動産登記の手続きがされていない土地・建物の場合は12年)
②10年間にわたって継続的にその土地・建物の所有者として生活してきた
③所有者の許可を得ていない。つまり、スクウォッターの誰も、占拠当初から貸借という形をとっていない
面白いのは、所有者に「住んでもいいよ」と許可をもらっている場合には、登録所有者にはなれないということだ。あくまでも、“こっそり我が物顔で” が鉄則だ。
●申請から正式な所有者になるまで
(不動産登記を行う)HMランド・レジストリが提出された申請書の有効性を確認した後、所有者に告知して、所有者が65日以内に異議を申し立てなければ、土地・建物は晴れてあなたのものとなる。
たとえ所有者が異議を唱えたとしても、強制退去されずに占拠を続けていれば、また2年後に再トライできるという気の配りようだ。
70年代頃から増え出した不法占拠問題
法律の知識があるスクウォッターが突然増えたというわけではあるまいが、70年代あたりから「不法占拠者の権利」を使って他人の家に居座る輩が急増した。
家主が休暇中などで留守にしている家に侵入し、玄関のドアに「この家は我々が占拠している。我々の権利を害してはならない。」と書かれた張り紙を堂々と掲げてるスクウォッターたちもいた。そういった状況でありながら、彼らを強制退去させることは、正規の所有者も警察にもできなかった。
法律改定
このような被害にあった正当な所有者がスクウォッターから住居や土地を取り返すのに、実力行使に出たり脅迫的な行為をとると、それ自体が違法とみなされ自分自身が犯罪者となってしまう。そうならないためには、経験のある弁護士に相談し合法的にスクウォッターを追い払う段取りを組むのが結局は1番の近道だったようだ。しかし、2012年9月に法律が改定されるまでは、この「1番の近道」ですら長い年月(と経費)がかかっていた。
現在では、個人宅に限っては、勝手に住み着いて「不法占拠者権利」を振りかざすことは、はっきり<違法行為>とされている。
●もしも見知らぬ人たちが自分の所有する建物に住んでいたら
忘れてならないのは、「不法占拠者の権利」が消滅したわけではないということだ。
所有する建物にスクウォッターが住み着いていることが発覚したら、一刻も早く手を打つこと。第一歩が遅れれば遅れるほど、「不法占拠者の権利」が幅を利かせてくる。
まずは警察に通報。警察には彼らが不法侵入者か不法占拠者かを見極める権限がある。警察が不法占拠であると認定したら、地方自治体に「退去通知」を発行してもらうことができる。
スクウォッターが退去通知を受け取っても動こうとしない場合は、残念ながら次の手は裁判だ。
最後に
押してもダメなら引いてみな・・・ではないが、自分の城を守ることに悩んでばかりおらず、少し気持ちを切り替えて、他人の城をどうやって手に入れるかについても一考してみてはどうだろう。
結局のところ、それを合法的にする手立てがあるのだし、政府のウェブサイトにもその方法が堂々と掲載されているのだから!
www.gov.uk/squatting-law/squatters-rights-to-property