イギリスの物価は高い。実際に住んでいて肌感覚で高いと感じるものはなんだろう…と数秒考えただけで、住宅、交通費、外食などがパッと頭に浮かぶ。

ロンドンで不動産屋のウィンドウに貼られている物件リストを、(ガン見するとクラクラしてくるので)ちら見すると、百万ポンド単位の住宅が平然と並んでいる。「どんだけ悪どい職業についたらこんな一軒家が買えるのだろう」と、正直な気持ち半分、やっかみ半分で、勘繰ってしまう。


思わず「ありえへん!」と叫びそうになる?


1年ぐらい前だったか、西ロンドンのシェファーズ・ブッシュで売りに出された物件が話題になった。「スキニー・フラット」とニックネームがついた、ロンドンで一番幅が狭いとされるこの物件に、およそ百万ポンドの値がついたのだ。どのくらい狭いのかというと、その幅わずか167センチ。地階も含めて5階建てではあるものの、寝相の悪い人には特に使い勝手が悪そうだ。反面、太らないように気をつけるモチベーションにはなるかもしれない。


こちらは、ありえる?あり得ない?


百万ポンドは無理だけど、もう少しポッシュなエリアに住んでみたいという方にも朗報が(今年8月には)あった!なんと、カーテンを開ければハロッズやハーヴェイニコルズがご近所さんという超好立地。しかも有名著名人が住む(らしい)アパートブロックのペントハウスときた。気になるそのお値段は、先出の「スキニー・フラット」を大きく下回る32万5千ポンド。体が丈夫なうちに頑張って働いて、ナイツブリッジのペントハウスで引退生活を送ってみようか…と一瞬でも夢を見てしまった人はちょっとお待ちを。


What’s the catch?(何か裏があるのか)

もうご想像はついていると思うが、この物件はとにかく狭い。「スキニー・フラット」に対抗してなのかどうか、「マイクロ・ペントハウス」というニックネームがついており、説明書には「スタッフ用として最適」とある。要は、同じビルに住む超大金持ちの召使い部屋に、ということなのだろう。

ポルトガルの有名なスペースセービング建築会社が内装を担当しただけあって、写真からだけだとそれほど狭いようには見えない。が、実際には一般的な庭の物置小屋程度の広さしかないらしい(143sq ft/おそよ13平米)。

では、合法的な仕事に真面目に励む、善良で薄給の一般イギリス人たちは一体どこに住んでいるのだろう?


大人になっても親と同居

16歳の声を聞くと家から追い出されていたのも今は昔。昇給はごくごく緩やか(あるいはナシ)なのに、買うにしても借りるにしても家の値段はシャープに上昇というトレンドが続き、家を出たくとも出られない若者が増加している。

イングランドでは、1997年以来家の価格が173%も高騰しているにもかかわらず、23〜35歳の給与は平均で19%しか上昇していないという数字が出ている。

昨今のパンデミックで休職や失職に追い込まれた人も多く、なんとか一度は自立したものの、再び実家暮らしを強いられたというケースも多い。実際、15〜34歳の男性のおよそ半数が今も親と同居しているという。これは、同じ年齢層の女性の36%よりもずっと高い数字だ。

子どもがやっと巣立ったとホッとしていたのに、また同居生活を再開せざるを得なくなった親の方にも、デリケートな悩みの種があるようだ。お金に困っている我が子に部屋代や光熱費を要求するべきか、掃除や洗濯、料理などはまた私たちがやるのか、お互いのプライバシーはどうするのか…。子どもが成人した後は、悠々自適の生活が待っているはずだった、こんなはずじゃなかった、というのが本音だろう。


最後の手段

コストを抑えて自立する手段としてよく使われるのが、ハウスやフラットのシェア。

衛生観念が自分と近い人たちとであれば、という条件付きだが、バスルームやキッチンのシェアまではなんとか我慢できるかもしれない。とはいっても、同じ屋根の下に住むのは赤の他人。共同生活には何かと問題も多そうだ。そんな共同生活で体験した出来事が掲載されたウェブページがいくつもあったので、その中からいくつかご紹介しよう。

① ステーキ肉を自分のベッドの下に隠してる同居人がいた

② フラットメイトの彼氏を紹介してもらったら、なんと元彼だった

③ 誰がゴミ出しをするかで揉めて、フラットメイトたちが殴り合いの喧嘩を始めた

④ フラットメイトの1人にデートに誘われたけれど断ったら、車に傷を付けられた

⑤ 頭のおかしい女がシェアハウスを出ることになった。「お別れのプレゼント」として、こっそりオーブン用グローブに画鋲を入れていった

⑥ 同居の大家に、彼女の飼い猫の遺灰が入ったミニチュア棺桶を見せられた

⑦ ハウスメイトの男の部屋の引き出しの奥に、私のブラがあった。どうしてそうなったのか、彼は説明できないらしい

⑧ 朝っぱらから変な格好でジン&トニックを飲んでたハウスメイトの男。「大英帝国のどこかに、今現在午後6時の国が必ずあるはずだ!」というのがその言い訳だった

…と、ネガティブなエピソードばかりを並べてみたが、最後に、シェア体験もそう悪くないかな…と思わせてくれるある男性の回想をご紹介。

⑨ 共同で使う場所が汚れていても誰も責任を取らなかった。皆違う時間帯で生活していたので朝から晩まで騒音が絶えなかった。冷蔵庫からは自分用の食べ物が消えた。だんだん互いに対する遠慮がなくなり、半裸でうろつくやつも出てきた。暖房は効かないし湿気がこもって臭かった。セキュリティにも不安があったので、大切なものは車の中に保管した。

それでも今振り返ると、これまでの人生の中で最も素晴らしく、開放的で、いろいろなことを発見した時期だったと思える。おいしいスクランブル・エッグの作り方をマスターし、アイロンの掛け方を覚え、言い争いになった時の仲介をしたり、落ち込んでる仲間の話を聞いてあげたりした。信用できる人の見分け方や、相手を信じ、信じてもらう方法、避妊の大切さ、どんな親しい人であれお金を貸してはいけないこと、大家と呼ばれる人たちが貪欲であることを学んだ。

自分らしくいること、自制すること、愛すること、思いやりの心や責任感を持つことを学んだ。
ハウスシェアは清潔な生活とは言えないけれど、自分を成長させてくれたし、何より「Great Fun」だった。