長くて、寒くて、昼間でも薄暗いイギリスの冬。特に今年(2023年)は、イースターが過ぎても春になりそうでなりきれない、「冬ではないけど春とも言い難い」というような歯痒い日々がずるずると続いた。そんな国に住む人々が、夏を待ち遠しく思うのを誰も責められないだろう。

そして、いよいよやってきた本格的な夏。疑いようのない暑い夏!「今日はギリシャのどこそこより気温が上がった」とか、「明日は南フランスより暑くなるだろう」などとニュースが出るたびに、イギリス人は笑顔になり浮き足立ってしまう。

・・・だが、待ってほしい。イギリスの夏は実は危険がいっぱいなのだ!


見かけたら避けろ。ジャイアント・ホグウィード

ジャイアント・ホグウィード(和名:バイカルハナウド)は、19世紀にロンドンのキュー・ガーデンがコーカサス地方の植物園からその種を仕入れたのをきっかけに、徐々に各地の観賞用庭園に展示されるようになった。しかしイギリスの風土が性に合っていたのか、庭園を飛び出して急速にイギリス全土に根付いてしまった。

こうして現在ではどこでも普通に見かけるようになったこの植物。実は絶対に触ってはならない、毒植物なのだ。逃げも隠れもせず堂々とその辺に植っているので(大きいものでは3メートルの高さにまでなるという!)、見逃すことはないだろう。

茎に触っただけでもかなりの痛みを感じるが、万が一茎の液に触れてしまったら痛みだけでは済まされない。まるで大火傷をおったかのような水膨れができ、傷口が日光に晒されるとそれがさらに悪化するという。治るまでには長い時間がかかり、火傷のような跡が残ることも多い。ジャイアント・ウィードが植っているところで、運悪く転んで全身が茎や樹液に触れてしまったら、命にかかわる場合もある。

この植物を見かけたら、すぐにその場を離れるのが得策だ。


いないようで実はきっちり存在している毒ヘビ

イギリスではちょっとした茂みに足を踏み入れてもヘビに出会うことはまずない。イギリスにはヘビが存在しないと信じている人もいるかもしれない。しかし、それは運が良かっただけで、イギリスにもヘビはしっかり存在している。しかもその中の一種「クサリヘビ(adder)」は毒ヘビだ。スコットランド北部からイングランド南部の海岸地域まで広く生息し、ロンドンではハムステッド、ハイゲイト、ホーンジーなどでも目撃されている。

サフォーク州でキャンプをしていた男性がテントで寝ていたところ、クサリヘビに頭を噛まれたというニュースが最近紹介されていた。テントに蚊や虫が入って来るのが嫌なので最初は迷ったが、暑い夜だったので風通しを良くするために入り口部分を開けたまま就寝したそうだ。「朝方、頭に燃えるような感覚を覚えたが、眠気に負けてそのまままた眠りに戻った。朝起きたら頭から透明の液が流れ出ているのに気づいた。理由がわからないのでしばらくそのままにしていたが、一向に止まる気配がないので病院に行って傷口の消毒をしてもらい、抗生物質と抗ヒスタミン剤をもらってテントに戻った。

キャンプ休暇から戻りしばらく経ってようやく傷のカサブタが取れたときに、初めてヘビの牙の跡がついていることに気づいて驚いた。それまで毒ヘビに噛まれていたとは想像もしなかった。」とのこと。

男性は、何かに噛まれたら迷わず病院に行くよう呼びかけている。(頭から何かが流れ出ていたら言われなくても行くと思うが…。)


見た目の気持ち悪さだけではない、危険な毛虫の大群

青空の広がる気持ちのいい日に公園や自然の中を散歩していると、突然現れ一瞬にして不愉快な気持ちにさせてくれる毛虫たち。そんな毛むくじゃらが、近年イギリスに大量発生している。どうやら2006年頃にオランダからロンドンに輸入された樫の木に紛れ込んでいたものが、そのまま定住してしまったらしい。今のところは主に南東イングランドに生息しているが、10年以内にはバーミンガムあたりまで “侵略” 地域を拡大しそうな勢いだ。

この毛虫の正式名は「タウメトポエア・プロセシオネア」。覚えてもらう気などさらさらないというような偉そうな名前だ。樫の木に大量に固まって生息しており、非常に毒性が強い。その毛に触れると皮膚がひどくかぶれ、目や喉の痛み、吐き気、めまい、発熱を起こし、最悪の場合は喘息を引き起こすことすらあるというから侮れない。

葉を食い散らかされ、乾燥や他の害虫に対して耐性を失った樫の木の数もこれまでに1億数千本にのぼるとされる。

この毛虫は危険を感じると毒を持った毛を飛ばしてくるので十分な注意が必要だ。毛は風に乗って飛ばされてくることもある。樫の木のそばを通るときには気をつけたい。例え毛虫の姿が見えなくても、木に白いワタのような塊があったらそれは巣である可能性が高いので、自分で始末しようとせず、「Tree A!ert」まで連絡を。


「ドラキュラ」の異名を持つハエ

英語でホース(馬)フライ(日本ではウシバエ)と呼ばれる緑色のハエは、アブ科の一種。これまでそれほど注意を払われてこなかったこのホースフライだが、温暖な気候や雷雨を好むため、大気が不安定になる猛暑日が増えてきたイギリスでも、人間に害を及ぼす事案が増加傾向にある。

刺された経験者によると、蚊や蜂のように音を立てるわけでもなくこっそりと近づいてくるので、刺されるまで全く気づかないそうだ。衣服の上からでも平気で刺してくる上、忌避剤(リペラント)が効かないというから厄介だ。そして一旦刺されると蜂とは比べ物にならないような激痛が走り、たちまち腫れてくるらしい。

主に日の出や日没に発生するので、その時間帯に薄着で自然の中を散歩するのは避けた方がよさそうだ。


殺人級のスズメバチ

一般的なワスプ(狩バチ)などとは比較にならないほどの強力なパワーを持つスズメバチが、今年に入ってからノーサンバーランド州とケント州の2箇所で目撃された。

イングランド南部とフランス北部の間に位置するジャージー島では、すでにかなりの勢いでその数が増えているという。2022年には島内だけで55匹の女王蜂が捉えられ、174個の巣が処分されたが、今年はこれまでにすでに438匹の女王蜂が確保されている。

これらは「アジアスズメバチ」、あるいは「殺人スズメバチ」とも呼ばれる。女王蜂の体長は5センチにものぼりワスプ界では最大級。イギリス在来種の比較的おとなし目のスズメバチとは桁の違う凶暴さが特徴だ。

アジアスズメバチは、1匹につき1日でおよそ50匹のミツバチを貪ることで知られ、イギリスの養蜂団体は警戒を強めている。また、ミツバチや他のワスプと違い、日没後でも蛾や昆虫を求めて飛び回る大食漢だ。

しかし警戒しないとならないのは人間も同様で、彼らの太く長い毒針で刺されたら、人間でも命を落とす危険があるという。しかも、1回刺すだけで何度も毒を注入できるというのが恐ろしい。

1匹でも見かけたら、即刻報告することが奨励されている。アジアスズメバチ・アクション・チームがオンラインでさまざまな情報を提供しているので、確認してみよう。また、Asian Hornet Watchという無料アプリもあり、殺人スズメバチの生体や他のワスプとの見分け方を学ぶことができる他、運悪く出くわしてしまったらアプリから即通報ができる。その際、携帯電話のGPSで場所も特定できる。


ヨーロッパで最大級の噴火が起きる(かも)!

「スーパー火山」や「地獄への入口」とも称される、イタリア・ナポリ近くに位置するフレグレイ平野のカルデラ火山。それがここのところ噴火の気配を見せ始めているという。近隣地域では、今年4月だけで600回以上の地震が発生しているというからただ事ではない。

このスーパー火山が最後に噴火したのは1538年。それ以降、この地域はわずかずつ沈下している一方で、マグマは地面を押し上げているという状況が続いている。中でも最も危険な地域とされるポッツオーリでは、1950年代以降4メートルも地盤隆起を起こしているらしい。

万が一、新しい噴火の規模が数万年前にこの地で起きた噴火に匹敵するとなると、溶けた岩石や火山ガスが成層圏まで打ち上がり、イギリスを含むヨーロッパはもちろんのこと世界中に影響を及ぼすことになる可能性もあると言われている。超大型の津波が起き、有毒な灰と硫黄が拡散され、地球は何年にもわたる長期的な冬に陥り、動植物の生態系は破壊され、飢餓が訪れる。いやその前に、人間を含む全ての動物は、灰をたっぷり含んだ厚い雲から降る雨によって呼吸困難に陥るというから全くもって恐ろしい。

火山付近に住む人々は、「最近はほぼ毎日のように揺れを感じている。夜の地震には特に恐怖を感じる。いよいよ噴火するのかと」と、怯える。すでに避難計画もたてられているが、人口過密な場所であるため、バス、電車、ボートなどを使って全員を退避させるのに3日はかかるという試算だ。

科学者や研究者たちによれば、大噴火が起きるためにはいくつもの条件が整わないとならず、今のところは(!)たとえ噴火が起きたとしても世界中に混乱を起こすような規模になる可能性はそう高くないという。もしかしたら緩やかな地盤隆起と沈降を繰り返しながら、自然に落ち着くこともあり得なくはないらしい。

一つだけはっきりしていることは、世界中の全ての火山と同様、誰にも先は読めないということ。気になる方は、“地獄への入口” で大噴火が起きた場合のシミュレーション動画をチェック:www.youtube.com/watch?v=8aJbxtB8Mfw


それでも素晴らしいイギリスの夏!

イギリスの夏は短い。長くて暗い冬が来る前に、ほんの少しだけ警戒心を持って、存分に楽しもう。え、もう無理って・・・?

Cambridge Photo by Chris Boland
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